詩>あなたがあふれる

ある日
風をすべる花弁のように
詩の一片が心の縁に降りてくる

それをきっかけに
土蔵のような古書店や海の見える図書館で
手当たり次第に書架から詩集を抜き出しては
愛の詩ばかり読みあさった
何時間も何日もかけて

一編一編は依怙地な心を丁寧に解き放ち
知ったかぶりを謙虚にさせた
そればかりか
ときには無神論者に敬虔な思いさえ抱かせたのだった

バインダーノートに書き抜いたアンソロジーを片手に
無為な日々をさまよううち
やがて気がつく

言葉の庭園を熱心に探索していながら
しばしば何もかも上の空だったことに

実を言えばあなたという領土の周辺を
ボクは闇雲にうろつきまわっていただけだったということに

それもこれもあなたという存在が
ボクの内側からあふれかえってくるようにと
切なく願っていたことに