2005-06-01から1ヶ月間の記事一覧

詩>十月の空

少女の 浮かべる 涙の そのみずうみに 小舟を 浮かべて 心のように 澄みわたった 空に 浮かぶ ひつじ雲を ねころびながら 見上げるとき ふと 思い浮かぶ そのひとに あなたが なってくれると いい

詩>九月の空

頭上の空に はじめはたったひとつだった濁点が みるみる一帯に吹き出して黒雲をつくり それらは拡散してそこここで成長すると たちまちのうちに叢雲となり 黒雲は黒雲を呼び集めながら 革命前夜の群衆のように全天を埋めつくした さらに幾層にも重なりあって…

詩>八月の空

空から誰かがこちらを窺っている そんな気がして目を上げたとき 入道雲の陰へと咄嗟に何ものかが身を隠したようなのだが あれは近しい死者のうちの誰かだったのか それとも迷妄する神か 法悦する悪魔だったか 八月の空には厚みがある だから 地上に熱がこも…

詩>七月の空

気持ちよさそうに空を泳ぐ 女の裸体 ショートヘアが意志の強さと知性を感じさせ のびのびとした泳ぎが性格の鷹揚さを示している なによりも 長い手足の繰りだすクロールのフォームが 美しい ひとところをめぐる軌跡は 空に∞を描きだしている その白く蠱惑的…

詩>五月の空

引っ越し祝いにポインセチアの鉢植えをもらった けれども 世話の仕方がわからず半年で枯らしてしまった 捨てようにも捨てられなくてとっておいたその鉢に いくつか埋めておいた橙のたねの一つが おととし芽を出した それを丹精に育ててきた 高層アパートのベ…

詩>四月の空

四月の空は水のように澄んでいる けれども れんげ畑や菜の花畑が その水面に映っているのを 見たものは誰もいない いま 跳躍台の上に立った少女の裸身が 大きく伸びをし 真直ぐ四月の空へ飛び込んでいく 小さな水しぶきばかりか 水紋さえもが たちまちのうち…

詩>三月の空

森林地帯をつらぬくハイウェイの 中央分離線の上にそいつは横たわっていた 天をあおぎ 口をあけたまま 目を瞠っている どんな運命がそいつを襲ったのか 知る由もない 傍らを時速八十キロで走りぬける乗用車の フロントガラスからは一瞬のことではっきりしな…

詩>二月の空

凍てついた空をわたるのは トリという翼の生えた幻想だ 地平線のはてから水平線のはてへと それらは徒党を組み ゆっくりゆっくりと北上していく こんな光景を夢にみたような気がする 夢のつづきでは 何もいなくなった空の真っ只中で ひとり自分が磔にされて…

詩>一月の空

指先と爪先の方から冷気がしみ込んでくる そのせいかどうか ふるえる魂を掻き抱くことに執心して 空など顧みなくなる わたしはわたしのことで精いっぱいだ みじめに洟水を垂らしながら 炬燵にもぐって蜜柑をたらふく喰らい 終日 見るでもなくテレビを見てい…

詩>シエスタの記憶 Ⅰ

なにもない なにもない午下がり 訪問者もなければ誰かとの約束もない やり切れないくらい晴れ上がった休日の空を 音もなく 引っ掻いていくひとすじの飛行機雲 なにをする気にもなれず 徒に哀しみの記憶を弄んでいると なんとなく ただなんとなく 存在してい…