詩>八月の空

空から誰かがこちらを窺っている
そんな気がして目を上げたとき
入道雲の陰へと咄嗟に何ものかが身を隠したようなのだが
あれは近しい死者のうちの誰かだったのか
それとも迷妄する神か 法悦する悪魔だったか

八月の空には厚みがある
だから 地上に熱がこもるのだろう
ベランダの鉢植えのブーゲンビリアがしおれて
そこに蜘蛛が一条の糸でぶらさがると
向こうの地平線のうえに音のない落雷があった

流れいく雲にのり
死者たちは八月の空を駆けめぐる

空から誰かがこちらを窺っている
そんな気がしていても
もう二度と空を見上げない