詩>九月の空

頭上の空に
はじめはたったひとつだった濁点が
みるみる一帯に吹き出して黒雲をつくり
それらは拡散してそこここで成長すると
たちまちのうちに叢雲となり
黒雲は黒雲を呼び集めながら
革命前夜の群衆のように全天を埋めつくした

さらに幾層にも重なりあってスクラムを組みつつ
絶えず増殖をつづけている

地上の街は瞬く間に
闇底に沈んだ
そこに人間の気配はまったくない

不気味な赤墨色の蠕動運動は
新しき世紀への胎動なのか
いかなる啓示や摂理のもとに
いったい何がはじまろうとしているのか
あるいは何が終結しようとしているのか
それとも何かが生まれようとでもしているのか

遥か遠方でしきりに雷鳴がとどろき
その閃光に照らしだされるようにして
厚い暗雲の向こうに
何かしら確かなカタチが見えようともしている

いましも暴風雨の前兆は極に達しているのだが
半日以上も経つのに
風がここちよく頬を撫ぜていくばかりで
未だひとつぶの雨さえ降ってこない