2005-05-01から1ヶ月間の記事一覧

詩>夏のはじめの窓辺で

あのひとは斜めに背中を向けたまま 窓の敷居に肩肘をかけ 遠くの 夏のはじめの空を見ている 窓の向こうに風景はない あるのは空だけだ ときおり窓枠いっぱいの風がふいて 長い髪が頬にかかる それを気にも止めず あのひとは窓辺にじっと凭れている 来るはず…

詩>部屋の女

一人で 湯を沸かす ティーカップとスプーンを揃える レモンにさくりとナイフを入れる スライスした一枚を口に含む -顰めたその顔が愛くるしい カップにティーパックをおとし 湯を注ぐ 馨しい夜が部屋いっぱいにひろがる そこにレモンスライスを浮かべる シ…

詩>記録Ⅰ

綴るべき言葉はいくらでもあるのかもしれない ただ その機会を徒に逃しているだけなのか 199×年12月24日 午前2時半 ぼくはこうしてキーを打つ 言葉の端端から失われていく時間を必死に書き留める それは多分虚しい作業だ だが ほかには何も手立てが…

詩>不安な睡眠

無音の時間が水圧となって迫ってくる ヒトは眠る間サカナになる エラで小さく呼吸し ときおり指先をヒレにして ピラピラ動かしてみせる 特別なんの意味があるわけでもなく ゆらめく寒色のゆめうつつ 部屋はコンクリートの水槽なのか いたるところ カキガラや…

詩>眠れぬ夜に

花瓶に咲き誇る生け花たちの怨み言 読書するヒトの心象風景 音を落としたテレビに映る ドキュメンタリーの裏側の真実 長々と禁じられた告白が交わされる電話回線 高速道路を疾走する 貨物トラック運転手の悪夢 コンビニエンスのレジで転寝する店主の履歴 海…

詩>蝶と少年

かわたれ時の 澄みきった空間に延びていく 大型蝶の軌跡を辿りながら 捕虫網を持ち 少年は走る あたかも生きてあることの謎を探るかのように 踏み入ったのは夢幻の世界か 赤紫にかすむ砂漠 鮮明に光るコバルトブルーのオアシス はるか彼方に連なる山脈の茶褐…

詩>ふりだしにもどる

朝まだき 地平に炎えるニクロム線 午すぎて 沖に浮かぶ 工業団地の蜃気楼 島よりも巨大な殺人ハマグリ 濃紺の夕べ 赤錆びた鉄鋼の森林の奥深くに 匿された溶鉱炉 夜に盲い 寝汗をかいて 徒に死を恐れる -----ふりだしにもどる ふりだし地点に立ったまま…

詩>大都市 T

この手懸かりのない胸苦しさを どう拭うことができよう 一人でたった一人きりを慰めて それでまた一掬いの言葉を喪っていくのか 涯しなく重なり合う俺の 夜の姿 部屋の暗がりからそっと肩を抱きにくる その腕を 何と切なく 何という長い間 待ち焦がれている…

詩>永く暑い夜

永い夜だ 永いばかりでなく どこまでも暗く盲いた夜だ 腐った二枚貝 赤錆びた自転車でありたいと思う夜だ 闇底に沈む街並の どこかの部屋で女が笑っている 饐えた温気に口で息をしながら 美しい裸体が男の傍らで笑っている 街灯だけが星座のように取り残され…

詩> 眠る人々へ

人々の気配は途絶えた 開かれたページで 言葉は同じ場面(シーン)をなぞっている 聞こえているのは 静寂(しじま)の被膜の顫え 光が包むものはもうない そして 言葉が名付けねばならないものも 別れたひとのことなど 誰も思い出そうとはしないだろう 皆 もうベ…