詩>夏のはじめの窓辺で

あのひとは斜めに背中を向けたまま
窓の敷居に肩肘をかけ
遠くの
夏のはじめの空を見ている

窓の向こうに風景はない
あるのは空だけだ

ときおり窓枠いっぱいの風がふいて
長い髪が頬にかかる
それを気にも止めず
あのひとは窓辺にじっと凭れている
来るはずのない人を待つように
いつまでも

見たはずもないのに
心に焼きついている鮮やかな光景
あのひとは決してふりかえらない
そして あれほど切なさを募らせたあのひとの顔も声も
ぼくはもうすっかり忘れてしまった

空色のカーテンが揺れ
次第にあのひとの後ろ姿が透けていく