2005-04-01から1ヶ月間の記事一覧

詩>未知の街

誰もがみな空のことなど忘れている だから 陽の光も星々の光も垂直に零れてくる あんまり辺りが明るいので 人々はねぶそうに光に身を委ね 散策したりベンチに腰掛けたりして 実は忙しい 何の予兆もなしに突風が起こり 幾人ものモノ達が枯葉のように 吹き溜り…

詩>部屋 (春)

光は脚を截りとっている 水漕には幻が 指先に見えない棘が 辺りを不在なるものがうろつきまわる 低く翅音のしているような 近くなり 遠くなり 止み また唸り 足音が窓下を通り過ぎる 俄かな陽の翳り 変幻と床に描かれる霞模様 そこここで 生欠伸が惹き起こす…

詩>鍵穴

心の鍵穴に キーを差し込んだまま 居なくなってしまった あの人 一組の机と椅子のほか 何もない 部屋 窓から見える 午睡のような風景は ぼくではない 芥子粒ほどに聞こえる 街の喧噪は ぼくの妄執でない 塵の積もった床と 脱色したテーブルクロスに 季節も時…

詩>食事

中年の男と女が食事をしている 簡素な中華料理店だ 女は先っきから同じ愚痴話を繰り返す 時々、女の胸元辺りに目を遣りつつ 男がそれを聞き流す ふと、軽く開けた口唇を突き出すようにして 何かを言いかけ 口の端に付いた脂を ナマコのような舌が嘗め取る 女…

詩>雨が降りつづく

目覚めると雨だった パジャマを脱いで普段着へと着替え 洗顔と朝食の用意をすませてから コーヒーカップを片手に外を眺めてみても雨だった 夫を送り出した後 食器を片付け、掃除、洗濯をこなし ほんの束の間ソファに腰を下ろして週刊誌をめくってみる頃にも …

詩>春風

風に抱かれた綿毛のように 晴れ上がった青空をわたり 想い出のあのひとはどこまでいってしまったのか 抽出しの片隅にしまいこんだ一枚の写真に さわやかな微笑みを残したままで 春めく風景に身も心も漂白されて 新しき予感を告げる聲々へ そっと耳を傾ける …

詩>彼・彼女・ 俺

彼と彼女 彼と俺 彼と彼女と俺 俺たち三人は街に出る 三人並んで通りを歩く しかし 俺の心は常に彼らの歩調に遅れがちだ 俺たちはサテンに入る 彼と彼女 と俺 俺たちは街並のことや公園のことを話題に談笑する 書物のことや映画のこと そしてまた世間のこと …

詩>好きでもないと 好きでないでもないと

好きでもない女に電話をかける 好きでもないから話すことなどあるはずなく 好きでもないが退屈だから映画に誘う 好きでもないはずの女はついてくる 好きでもないのに腕をからめあい 好きでもない街にでる 好きでもないくせ好かれたがりのつまらぬ女 好きでも…

詩> 詩>いま あなたは呼ぶ

とある人に いま あなたは呼ぶ そこに僕は存る あなたが微笑む 僕は探る その謎を あなたが歩み出す 僕は待っている あなたの悲しみの水溜り その傍らに僕は彳む あなたは心を放つ 僕は遥かな地平線 あなたは涙する 僕はその頬を伝う あなたが謳う 僕は梢を…

詩>踏切で待っているのは

踏切 踏切で待っているのは 私ではない 待っているのは私の言葉だ あなたに届けられるために 遮断機を潜ろうとしているのは 私ではない 潜ろうとしているのは私の欲望だ あなたの胸に口づけするために 警笛の前をあたふたと駆けていくのは 私ではない 駆けて…

詩>ナイフとフォークを清楚に操り

食 事 ナイフとフォークを清楚に操り ぼくの心をあなたは食べてしまった あなたに心を盗られたぼくは 身も心もと切なる想いに憔悴し 暁方の岬から身を投じたのだ 飢えた魚たちがぼくの死にむしゃぶりつき 跡形なく喰らいつくす ある日の晩餐 そのうちの一尾…

詩>夜毎 自分の死までの

夜毎 自分の死までの日数を算える いつかは死ねるという約束事こそ ぼくらの唯一の慰みなのだ 自分の外側にしかない この世界 この時代において 寝そびれたベッドの上では 繭のなかの蛹のようにして何も考えない 自分を自分で幾重にもくるみ 無意識の時空を…