2005-08-01から1ヶ月間の記事一覧
晩夏 にぎやかな客たちを乗せて 路線バスが立ち去る 鄙びたバス停は木漏れ日を浴び 波紋のような網目模様のなかにたたずむ 足もとに寄せてはかえす潮騒 時折 その静けさを風がさらっていく 想い出を胸のブローチにして 夏服の少女はどこかへ消えてしまったの…
一〇〇パーセント天然 ウィスキーグラスにジンをなみなみと注ぎ 俺は一気にそれを呷ったのだ そのとき 夜はjazzyにサックスを泣かせていた カウンターのボーイが顔を近づけてきて言ったっけ ----‐女を騙すのにその手は古いですよ 俺は何も言わず もう一…
本当はずっと前からこんな出会いの予感があった だから あわてふためいたりしないで あなたの瞳をじっとみることもできた マリアともキリストとも無縁だが 敬虔な気持ちならボクにもある ここでいまひれ伏して あなたの足の甲に口づけることもできる 特別な…
雨脚が急に烈しくなり あらゆる叫びが圧しこめられる ぼくもあなたもいかに多くのことを やらぬまま済ませてきてしまったことだろう あしたがきょうになり きのうになり おとといになって そしてどんな日だったのかも忘れてしまう そんな一日 ぼくらはただ今…
なんでもない一日の終わりに 誰かが傍らにいる そんな空想に心をあそばせてみた バスが走り去り ひとりとり残された 勤め帰りの停留所 傍らに誰かが ------- ひとり 又ひとりと傍らに身を寄せたのは 愛した女たちだった 彼女たちは いま どこでどうしている…
ヒロイン 仕事を終えると 彼女はひとりで映画を観にいった 二本立ての安い上映館だ 一本は一年前のサスペンスものの話題作 そして もう一本は恋愛映画だった 中年の男とまだ若い女との 夕凪のような静かな出会いと訣れ よくあるパターンのストーリィに 彼女…
六月の空 古い手帳に挟まれたメモ用紙 『海を背景に撮ったきみを フィルムのなかへ閉じ込めたままにして いつしかきみのことも忘れてしまうのかもしれない』 海を背景に撮った写真のことも きみというヒトのことももう覚えていない 日付欄には飛び飛びに 立…