詩>蝶と少年

かわたれ時の
澄みきった空間に延びていく
大型蝶の軌跡を辿りながら
捕虫網を持ち 少年は走る
あたかも生きてあることの謎を探るかのように

踏み入ったのは夢幻の世界か
赤紫にかすむ砂漠
鮮明に光るコバルトブルーのオアシス
はるか彼方に連なる山脈の茶褐色と
背後の空の白藍色
あたりの空気が絶え間なくうごめく
視線をもどせば
突然、一面に群生するナデシコの深紅
そのひとふさに少年の指先は触れ
爪に浅葱色の光沢がひろがる

見上げた空の水底に
歯車のない時計がひとつ忘れられている

走る そのことのためだけに少年は走る

地平線にうす緑のこぬか雨が降りつづき
見えない嵐がそこを這う

光の鱗粉を撒きながら
蝶は誘うように近づいては離れ
離れては近づいた
ふと 少年は耳の底に官能的な声をきいたような気がした