詩>三月の空

森林地帯をつらぬくハイウェイの
中央分離線の上にそいつは横たわっていた
天をあおぎ 口をあけたまま
目を瞠っている

どんな運命がそいつを襲ったのか 知る由もない
傍らを時速八十キロで走りぬける乗用車の
フロントガラスからは一瞬のことではっきりしなかったが
そいつは歯を剥き
あたり一面に五臓六腑をぶちまけて
昇天していたことだけは確かだった

最期のときに見上げた空のことも
胸の痛くなるその美しさも
凛としたすがしさも
しびれるような虚脱感も
仕舞いこまれた夥しい記憶もろとも
たちまちのうちに消え果てただろう

春うららか
はるか韃靼海峡を渉ってきた一葉の蝶が
まだ温みのある そいつの鼻先にとまる