詩>泣きたい気分の

泣きたい気分の夜だった
殊更何があったわけではなかったが
声を上げずにしんみりと涙したい
そんな気分の夜だった

唐突だが
家畜として生まれても子ブタは希望を持ちつづけるだろうか
屠られる若いウシの哀しさはどれだけ深いだろう

折よく雨も降りだした
人身事故のあったことをラジオが告げている

ゲージに生涯押し込められたニワトリたちの
果てしない苦悶と絶望はどうだろう

去年の秋 虫たちが盛んに鳴き競った草叢は
月並な上 無用な公園へと造成された
おびただしい数の幼虫や蛹や卵が
アスファルトの下の暗黒で死に絶えただろう

たとえ何もしなくとも
ヒトの生活は膨大な犠牲の上にあるという戦慄
しかもそれを中断することもできない

ともかくも泣きたい気分の夜だった

雨は止み
身震いするように夜が明けた