詩>せめてもの思いに

夏の名残も失せて
寂しい風が一日吹いていた

義理の父が息をひきとった

そんなときにもボクは
マンションの隣室と諍いを起こしていた

もはや快復の見込みはなく
昨日のうちからデジカメで撮った義父の写真を
ペイントショップで加工した
なかなかの出来に満足しつつ
あらためて義父の顔をながめた

それから
画像をMOにコピーし写真店に出した

今日には出来上がり
手袋をしてそれを額に入れた
埃が気になり何度も入れ直した

晴れているような曇っているような
曖昧な天気の一日だった

死というものをいきなり突きつけられる
気持ちがへこむ
世の中のざわめきや猥雑さが心を上滑りしていく
ある作家は死の二日前に娘さんに問い掛けたという
「僕はどうしたらいいかわからない。
本当にどうしたらいいのだろうね」
冷酷かもしれないが所詮それは他人事なのだ

義父との快くはない思い出だけが脳裏を巡る
決定的ないざこざがあった数年後に関係を修復し
それからはお互いに気を使ってきた
可もなく不可もないがそれがベストだった

日が暮れて一層風が肌寒い
やがて空は闇に閉ざされる

久しぶりにフォーレのレクイエムのカセットを
取り出して聴いてみる

せめてもの思いにこの詩を書いた