詩>訪問者
チャイムが鳴り玄関ドアを開けると
そこにいたのは蟹だった
突然の訪問の非を詫びるように軽く頭を下げ
それから何かしら急いでいる様子で訴えはじめた
けれども口から泡を噴くばかりで
何を言いたいのかさっぱりわからない
手振り身振りも加え
懸命に何かを伝えようとしていることは読み取れるのだが
やがて左右の目を立てたり寝かしたり
片方のハサミをかざしたり拡げたり
口元の泡がますます大きくなっていく
困り果てた面持ちで黙っていると
あきらめたのか蟹はいきなり直角に体の向きを変え
小走りに去っていった
肘で支えていた玄関ドアを閉め
ドアスコープから外をうかがった
向かいの部屋のドアと壁の狭間に
蟹は数本の脚をもぐり込ませて器用に上っていき
そこのチャイムを押そうとしているところだった