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角地

 
 

子供だった時分から

角地にあるタバコ屋の店先に

おばあさんは座っていた

 

大都会での生活に見切りをつけ

久しぶりに戻ってきたときにも

十年一日のごとくそこで店番をしていた

 

ことさら愛想がいいわけでも

かといって無愛想というわけでもない

まるで置物のように

そこに置いてあるといった感じの姿

 

新たに職を得て

通勤の行き帰りにその前を通るようになり

たまにタバコを求めることもあったものの

交わした言葉も二言三言

十数年前に禁煙してからは

立ち寄ることも全くなくなった

 

そうしてある日

古風な造りのタバコ屋の店先から

おばあさんの姿は消えた

 

程なくその家屋は取り壊され

しばらくは更地のままだった

 

出張で二ヶ月ほど留守をした帰途

そこを通りかかると

携帯ショップが建っていた

 

髪を染めた痩せぎすの若い女

カウンターで爪の手入れに精を出している

まもなく閉店時間

気もそぞろなのだろう

次の日も次の日も

女はカウンターで爪の手入れに忙しそうだった

 

やはり十年一日のように

彼女もそこにずっと座っているような気がした

すこしつまらなそうにして

 

長く感じた夏もその終わりを感じるころ

帰途を急いでいて店先を通り過ぎようとした

 

営業日であるはずなのに店に光がない

事情があって臨時休業としているのか

 

よく見るとガラスドアに「貸店舗」の表示がある

足をとめ店内を覗き込んでみた

彼女のいたカウンターだけが残されていて

あとは伽藍としていた

 

しばらくそこに立ち止まっていた