詩>「誰か私に会いたいヒトはいませんか」


誰か

 
 

去りゆく夏に連れられて

私も逝ってしまいたい

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

混み合うコーヒーショップで

スーツ姿の女性がブラックコーヒーの苦さを噛みしめる

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

チェーン店のカウンターに座った男は

丼物を掻き込むとそそくさと店を出た

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

二人の少女が

ビルの屋上から夕焼けをしばらく眺めたあと

道行く群衆を見下ろしている

「誰か私達に会いたいヒトはいませんか」

 

未明の高速道路を十九になったばかりのライダーは

東へとバイクを飛ばす

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

シティホテルから出てきた風俗嬢が

出入り口付近で落ち着きなく迎えを待っている午前二時

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

夜更けのコンビニで立ち読みをしている

背広姿の若い男は何時間もそこにいる

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

早朝 野良猫の餌やりを何年も欠かさない初老の女性

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

亡くした妻を私鉄駅まで迎えに来る習慣が

なかなか止められない中年男性

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

介護老人施設で老人たちは面白くないと思いながらテレビを見ている

こんな毎日がいつまでつづくのか

「誰か私達に会いたいヒトはいませんか」

 

夜勤明けのタクシー運転手は独り住まいの居間で

カップヌードルを啜ってから仮眠をとる

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

ファーストフードの店内で数人の仲間と一緒なのに

女子高生は携帯のメールチェックに忙しく碌に話もしない

「誰か私に会いたいヒトはいませんか」

 

誰かいませんか

私に、私達に会いたいと思うヒトはいませんか

いませんか 誰か

 

誰もいませんか