悔いることがあるとするなら それは誰にもさよならと言えなかったことだけだろう

さよならの空


一握りの灰を空に向かって舞い上げると
それで全てはおしまいだ
小心な煩悶の数々も人を愛した痛みも
焼かれて蒸発した一壺の灰だ
誰かを傷つけたことや
誰かに憎まれたことなど
みんな忘れてくれるだろう

深夜の酒に酔い
不覚にも涙した恥辱さえ
もう誰にも知られない
タバコの辛さひとつとっても
それは永遠に隠された謎となる

悔いることがあるとするなら
それは誰にもさよならと言えなかったことだけだろう
しかし、そんなことさえ死んでしまえば
もうどうでもいいことだ

どうでもいいこと
どうでもいいことばかり
そんなことにいままでどうしてこだわっていたのだろう

一握りの灰を空に…
そんな空は見事なまでに晴れ上がっているといい